10月11日（月）

 

よう。おれだよ、おれ。

元気だったかな？

 

だれかって？

 

しょうがないな。

姿を見せればわかるかい？

 

 

 

 

 

そう、ネクタイピンだよ。

メガネのデザインがチャーミングだろう？

 

衣替えになったんでな。

ご主人のにいつま先生が

久しぶりにつけてくれたんだ。

なつかしいね、この感触。

 

 

 

 

 

 

10月12日（火）

 

なあ…聞こえてるかい？

 

どうやらご主人とはぐれちまったみたいだ。

ああ…特にけがはない。

今ごろご主人はどうしているだろう。

落ち込んでやしないだろうか。

 

え？そこはどこかって？

ドジっちまった…ようく見なよ。

 

 

 

 

 

 

 

シートベルトにはさまったのさ！

 

 

ここは送迎に使うワゴンの中だ。

ベルトをしめた拍子にはさまっちまったんだろう。

 

おれがいないのに気づいたご主人は、

必死でシートの下を探してくれていたよ。

違う、違うよ。そこじゃあないんだ。

おれに口があったらそう叫んだのにな。

 

今日はここで夜を明かすことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

10月13日（水）

 

昨日は話を聞いてくれてありがとう。

おれは元気だよ。

あれから丸一日たったころ、

さいとう先生がおれを見つけてくれたんだ。

 

おかげでおれは無事、

ご主人のネクタイにおさまったって訳さ。

ご主人もさいとう先生には感謝してたよ。

 

 

 

 

 

やっぱりおれの居場所はここさ。

ネクタイピンとして生まれた以上、

ふさわしい場所で輝かなきゃあな。

 

そうだろう？

 

 

 

（平校／新妻武志　No.404）